『南の島に雪が降る』は、俳優加東大介が自らの従軍体験をまとめたもので、のちに映画化、テレビドラマ化されているので、一定の年齢の方はご存知だと思う。
私はつい先日まで再演され話題になったのをきっかけに本を購入し一氣に読み終えた。
太平洋戦争末期、主力部隊から外れ救援物資も届かないニューギニアの首都マノクワリでは、飢えとマラリアにより次々と兵士が命を落としていた。
いつ戦争が終わるのかも分からず生死をさまよう中で、人々の士氣を高め生きる希望となったのは、上官の命もあり加東らが立ち上げた劇団による芝居だった。
ジャングルの真ん中に日本の舞台を作り、三味線弾き、かつら職人、友禅職人、スペイン舞踏家の教師などが、ありあわせの材料で制作した衣装や舞台装置は粗末なものだったと思うが、兵士は一つひとつの演目に故郷や家族を想い、時には重病人を回復させるまでの希望となった。
厳しい現実の中で少しでも相手を喜ばせようと工夫し、精一杯演じることが明日への希望となり、笑いや涙が生きている証と固い友情となったことを知り、改めて仕事と文化の大切さを実感した。
今は物質的に豊かで平和な世の中だが、より人間らしく生きるために、どちらも大切にしてゆきたいと痛感した。
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