すぽっと らいと 8月

夢志記

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これからする親孝行

上杉 超治


 私が37歳の時父が亡くなり、それから4年が過ぎた。

「親孝行をせよ、父親に『ありがとう』と伝えよ」と、師に何度も命じられ、闘病生活の父にやっと「今までありがとう」と伝えたことを思い出す。
 私達家族は犯罪の被害で姉を亡くした。

子供だった私は悲しみを父に対する反発に代えて、人生や人間に対する恐怖を感じないようにした。

父は何も言わずに、私が30歳を過ぎてわかるまで耐えてくれた。

父は僧職にあり、犯罪で娘を失いながら教戒師を永年務めた。

決して謹厳な印象ではなく、仕事が終わると同僚を家に招いて明るい酒を飲むおもしろい人だった。

そして痛みの激しい癌との闘いで、命のある限り懸命に生きた。
 学ぶことによって見えてくるものは変わってくると思う。

もっと話したかった、もっと早く父の思いをわかれば、もっと深くありがとうと伝えられたと後悔もあるが、これから学んでさらに深くわかってゆきたい。

「懸命に生きること、ケチにならず不都合なことも受け止めること、明るく生きること、誠実であること」。

父の生き方を日々自分に問い歩むことが、今私が思う親孝行だ。


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